社長を解任された三屋裕子氏(左)は、林宏子氏(右)ら創業者夫婦の巨額退職慰労金をどう思っているのだろうか
ロサンゼルス五輪(1984年)女子バレーボールの銅メダリスト、三屋裕子氏(49)の社長解任で注目を集めた女性下着販売「テン・アローズ」(旧シャルレ)。今度は、創業者夫婦に総額18億円という巨額の退職慰労金が支払われたことに対し、経済界からブーイングがわき起こっている。同社はこの退職慰労金の影響もあって、2007年3月期まで3期連続の赤字に転落した。これでは、業績不振を理由にクビを切られた三屋氏があまりにもかわいそうだ。
問題視されているのは、04年6月に取締役を退任した創業者の林雅晴氏(72)と、06年6月に取締役を退任した林氏の妻、宏子氏(69)への退職慰労金。雅晴氏には05年3月期に総額約9億円、宏子氏にも07年3月期に同約9億円が払われた。
役員への退職金は原則として、会社が積み立てている役員退職慰労引当金を取り崩して支払われる。ところが2人の場合は、それぞれ役員退職金1億円強のほかに、創業者としての功績に報いる慰労金として8億円近くが上積みされた。
問題は上積み分で、いずれもその期の特別損失に計上されている。
同社は05年3月期から3期連続で赤字に転落したが、同期の連結最終赤字19億円のうち4割ほどに当たる7億9100万円が雅晴氏への慰労金の支払いによるもの。さらに、07年3月の連結最終赤字25億円のうち3割程度の7億9200万円が宏子氏への支払いによるものなのだ。
経営を再建するため、04年6月に三屋氏を社長に招いた同社。今年6月に業績不振を理由に追い出したが、一方で創業者への退職慰労金で大盤振る舞いをしているのだから、開いた口がふさがらない。
当然、経済界からは非難の声が上がり、企業経営に詳しい高木勝明治大学政経学部教授は「退職金支払いの制度があるにしても、経営が悪化している状況では、創業者という理由だけで巨額の退職金を支払うことは認められるべきではない」と指摘する。
テン・アローズは「支払額は株主総会で正式に承認されている」(秘書広報室)と説明するが、同社は創業家が発行済み株式の56%を保有するオーナー企業なだけに、創業家が会社を私物化しているとの印象は免れない。
かわいそうなのは、創業家に請われるかたちで社長に就任した三屋氏。在任中の3年間でイメージアップに貢献するとともに、希望退職者の募集や販売管理費の圧縮などに積極的に取り組んできた。07年3月期こそ就任前より売上高は100億円減っているが、08年3月期の見通しでは21億円の営業黒字が見込めるまでに経営体質を改善させている。
その三屋氏は今年6月27日の株主総会で、創業家が提出した解任動議で社長の座を追われた。同社は04年4月に退職慰労金制度を廃止しており、廃止2カ月後に社長になった三屋氏には退職慰労金は支払われない。
ここは三屋氏が創業者への退職慰労金をどう思っているか聞いてみたいところだが、同氏の取材窓口になっている事務所「サイファ」(東京)は「この件で(三屋氏が)取材を受けることはありません」と話すのみ。
仕方がないので、先の高木教授に思いを代弁してもらった。「三屋さんを広告塔として利用したあげく、使い捨てたということでしょう」
その創業者夫婦は三屋氏を追い出して、長男の勝哉氏(38)を後任社長に据えた。婦人下着といえば、イメージが大事な商売。創業家の表舞台への復帰は吉と出るのか、凶と出るのか…。
ZAKZAK 2007/09/06